春の山に入ると、空気の温度と匂いが変わったことに気づきます。
冬のあいだ凍っていた地面が、少し湿り気を帯びて、落ち葉の下から新しい草がのぞき始めます。
この日は、子どもたちを連れて『あさがね農園』さんで体験できるわらび採りに出かけました。

山菜採りというと、慣れている人がどんどん見つけていくもの、という印象があります。
実際、目が慣れてくるまでは中々見つけられません。
「あそこに生えてるよ」と教えてもらっても、目に入るのは草花ばかりで
「どこどこ?」「ほら、あそこ(笑)」という会話は、春先に一度はします。
農園さんへ到着して受付をすると、スポットへ案内していただけます。
足を踏み入れて見渡してみると一見、草原のように見えますが、
よく見ると足元すぐ側に一本、その横にまた一本、気が付けば一面にわらびがあることに気が付きます。

わらびは茎を持って優しくかたげると、ぽきっと折れます。
道具を使わずとも、無理に力を入れずとも、優しい力で摘めることと、
この音と感触が何とも気持ち良くて楽しいので、子どもも楽しく摘み続けます。
無理に引っ張るのではなく、自然に折れるところを探すように手を動かします。
かたいものもあれば、やわらかく折れるものもあります。
そうして採っているうちに、だんだん手が覚えてきて、
「これは少し伸びすぎかな」
「これはちょっと細いかな、太いかな」
そんなふうに、一本一本を見ながら選んでいく時間は、思っていたよりもずっと夢中になります。
袋の中にわらびが少しずつ増えていくと、それだけで嬉しくなります。
たくさん採れたから嬉しい、というよりも、
自分の目で見つけられるようになってきたことが嬉しいのかもしれません。
子どもたちも、「わらびどこー?」と言うものの、自分で見つけられると
急に足を運ぶテンポが変わります。
「ここにもあった!」
「これ、採っていい?」
「見て、長い!」
山の中でそんな声が聞こえるたびに、こちらもつい顔がゆるみます。
宝探しに似ていますが、もっと静かで、もっとささやかで、でも確かに楽しい時間です。
しばらく採っていると、手袋は黒ずみ、靴には枯れ葉がくっつき、
袋はわらびでパンパンになっていました。
気がつくと、さっきまで肌寒かったことも忘れていました。

採ったわらびを見ながら、家に帰ってからのことを考えます。
体験で良いことは、この地で摘んだわらびの下ごしらえ、食べ方、
おすすめの調理方法や調味料の比率など、そういったインターネットでは出てこない情報が
この地で暮らす方々に聞けることだと思います。
この日も、何気ない会話の中で、色々なことを教えてもらいました。
昨年は調べた方法で調理していたのが、昨年よりもバリエーション豊かに
手間もなく、一層おいしい食べ方を覚えることができました。
あさがね農園の体験では昼食も含まれているので、摘んだあとに
山菜を使った美味しい食事を楽しみながら、わらび採りで少し火照ったからだを休めることができます。
その中で生まれる会話もまた、かけがえのないものです。

食卓に並んだわらびを食べるとき、きっと山でしゃがみこんだ時間を思い出すはず。
わらびを見つけたときの小さなワクワク。
袋の中に少しずつ増えていく緑。
帰ってからあく抜きをする時間。
その全部がつながって、ようやく春の味になるのだと思います。
山の中で足元を探しながら過ごした時間は、思っていた以上に豊かなものでした。

わらび、山菜はぜひ体験で摘まれるのがおすすめです。
山では特にあらゆる場所が、誰かの大事な土地です。
良いと思って摘んでいても、それを見て村の方々が困っている現実もあります。
山菜が好きだからこそ、用意されている体験に足を運んで気持ち良く楽しんでもらえることを願います。